東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)8号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断する。
1 第二引用例に記載された考案について
第二引用例に、薬品等の物品貯蔵用のガラス窓付冷蔵庫等において、収納物の変質、劣化を防止するために、ガラス部分に、ポリエステル等のプラスチツクフイルムにアルミニウム等の金属を蒸着して接着剤にて接着した遮光膜を有するものが記載されていることは、当事者間に争いがない。
そして、原本の存在及び成立に争いのない甲第五号証(実願昭五一―七三一四四号(実開昭五二―一六二五六四号)の願書に添附した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム)によれば、第二引用例に記載された考案(以下、「第二引用考案」という。)は、「貯蔵庫」に関するものであつて、庫外から庫内に透過しようとする熱線や紫外線を遮つて薬品等の貯蔵物品の変質及び劣化を防ぐとともに庫内温度の上昇を抑制することを目的としていること、第二引用考案に用いられる遮光膜は、熱線及び紫外線を充分反射できるもので、一例によれば、熱線を八五%、紫外線を八一%遮断できたこと、第二引用考案は、庫外からの熱線が庫内に透過しにくくなるので、庫内空気の温度上昇を抑制でき、冷凍能力の小型化を図ることができ、また紫外線も透過しにくくするので庫内の紫外線を嫌う薬品等の貯蔵物品を変質なく長時間貯蔵することができる等の効果を奏することが認められる。
原告は、第二引用例の貯蔵庫は本願考案とは目的を異にするので本願考案の先行技術とはなり得ないのに、本件審決は、第二引用考案の技術内容の解釈を誤り、この誤つた解釈に基づき本願考案は第一引用例及び第二引用例に記載された考案並びに第三引用例に記載された発明に基づいて当業技術者が極めて容易に考案をすることができたとの誤つた結論に至つたものである旨主張するので検討するのに、前記当事者間に争いのない本件審決の理由の要点によれば、本件審決は第二引用考案の冷蔵庫が熱線の反射を意図したものと認定していることが認められるところ、前叙のとおり、第二引用考案は、紫外線を遮断することにより貯蔵物品の紫外線による変質、劣化を防ぐことを目的とするとともに、熱線を遮断することにより庫内の温度上昇を抑制し貯蔵物品の変質、劣化を防ぐことをも目的としていることは明らかであるから、前叙の本件審決の認定に誤りはなく、原告の、第二引用例の貯蔵庫は本願考案とは目的を異にするので本願考案の先行技術とはなり得ない旨の主張及びこれを前提として本件審決の結論が誤つている旨の主張は採用できない。
2 第三引用例に記載された考案について
第三引用例に、ガラス上に、屈折率一・七以上の薄い透明な誘電層と有利に組合される薄い金属層又は酸化物を含む金属化合物を組合せて作つた積層体を設けた防熱パネルが記載されていることは、当事者間に争いがない。そして、第二引用例に記載されたものは、可視光を含めて赤外線までの全波長のエネルギーを遮断する遮光膜による防熱であること、一方、第三引用例に記載されたものは可視光は着色させる波長領域を除いてできる限り透過させる選択透過性の積層体を用いた防熱パネルであることは原告の自認するところである。
そうすると、第二引用例の遮光膜と第三引用例の積層体とは、いずれも防熱を意図した膜(積層体)という点で軌を一にするものであるから、前叙の第二引用例に記載されたガラス窓付冷蔵庫等のガラス部分に接着された遮光膜の透視性を良くすることを目的として、第三引用例に記載された右積層体を右遮光膜に換えて適用することを想到することは、当業技術者にとつて極めて容易になし得ることと認められる。
(一) 原告は、第三引用例に記載された積層体は第二引用例に記載された遮光膜に比し、防熱性に劣るものであるから、第三引用例に記載された積層体を第二引用例に記載された遮光膜に換えて適用することは技術的に困難である趣旨の主張をするが、この主張を肯認するに足る証拠はなく、かえつて第三引用例における右遮光膜の防熱性の程度は、透視性との兼ね合いにおいて当業技術者が必要に応じ適宜選択できる事項にすぎないことは明らかであると解するのを相当とするから、原告の右主張は、採用することができない。
(二) また、原告は、第三引用例に記載されたものは着色した防熱パネルであり、そのままシヨーケースに適用することは困難である趣旨の主張をするので検討する。
成立に争いのない甲第六号証(昭和四八年特許出願公告第二七七二六号公報)によれば、第三引用例に記載された積層体を設けた防熱パネルに用いられる薄い金属層の金属としては、金、銀、銅が使用できること、同金属層は、屈折率一・七以上の薄い透明な誘電層(金属化合物層)と組合わされること及び右薄い透明な金属化合物層は、好ましくはZns、Bi2o3、Tio2、Sno2等の群から選択した化合物から形成されること、また、薄い金属層は、好ましくは二つの薄い金属化合物層の間に配置すること、一実施例として、金属層の厚さは一四五ないし一八〇Åで、金属層と前叙のガラス等の透明基体層との間の層の厚さは一〇〇ないし一七〇Åであり、他の金属化合物層の厚さは二〇〇ないし四五〇Åであることが記載されていることが認められる。これに対し、原本の存在及びその成立に争いのない甲第二号証(本願願書及び添附の明細書・図面)及び第三号証(昭和六一年一〇月一七日付手続補正書及び別紙訂正明細書)によれば、本願考案の熱線反射透明積層体は、プラスチツクフイルム上に高屈折率誘電体薄膜と金属及び/又は金属酸化物の薄膜とからなる透明断熱層を積層したものであること、金属及び/又は金属酸化物層は、金、銀、銅、パラジウム及びアルミニウムよりなる群より選ばれた一種以上の金属薄膜及び/又はIn2O3、Sno2、Odsno4等の金属の酸化物薄膜であり、透明なプラスチツクフイルムの表面に五〇ないし四〇〇〇Åの厚さで、高屈折率誘電体薄膜と積層して形成されること、右透明断熱層は該金属の他方の側を屈折率一・八以上の例えば二酸化チタン、酸化ビスマス、硫化亜鉛、酸化錫等の膜厚が五〇ないし六〇〇Åの誘電体層で挟んだ構成でもよいことが記載されていることが認められる。
右事実によれば、本願考案の熱線反射透明積層体のプラスチツクフイルム上の層構成は、第三引用例に記載されたガラス等の基体層上の層構成と同一の構成をとるものと認めることができる。そうすると、第三引用例に記載された積層体の中からシヨーケースに適した着色性のないものあるいは着色性の少ないものを選択することは、当業技術者において必要に応じ適宜なし得る事柄であつて格別創意を要するものとは認められないから、前記原告の主張は採用できない。
(三) 以上に説示したところからすれば、本件審決が、第二引用例に記載された遮光膜と第三引用例に記載された積層体の防熱特性の差及び第三引用例に記載された積層体がシヨーケースに適した色調を備えていない点について、右各引用例を読み誤つたものであるとし、これを理由に、本願考案をもつて極めて容易に考案をすることができたものとした本件審決の認定判断は誤りである旨の原告の主張もまた採用することができない次第である。
3 本願考案の特段の効果について
原告が請求の原因四2(二)において主張する効果は、本願考案の奏する効果として本願明細書に明示の記載はないが当業技術者であれば本願考案の構成から当然予測できるものであることは、当事者間に争いがない。
しかしながら、第三引用例に記載された積層体の前記層構成と本願考案の熱線反射透明積層体の前記層構成とは同一構成であることは前叙のとおりであるから、原告主張の右効果は、第三引用例に記載された積層体をその構成とする防熱パネルを、三面又は四面のシヨーケースの各ガラスの全面に適用して熱線を遮断する手段を採用することにより生じる、当然予測できる効果にすぎないものと認められる。したがつて、原告主張の右効果を、本願考案の奏する特段のものとする右主張は採用できない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却することとする。
〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。
「側面の三面又は四面に透明なガラスを有する冷凍又は冷蔵シヨーケースにおいて、プラスチツクフイルムに金属及び/又は金属酸化物の薄膜と高屈折率誘電体薄膜を積層した熱線反射透明積層体を前記ガラスの全面に接合し、庫外からの熱線を遮断したことを特徴とする冷凍又は冷蔵シヨーケース」